PHS(ピーエイチエス)は、Personal Handyphone System(パーソナル・ハンディフォン・システム)の略で、携帯電話とよく似た通信サービス。一般に「ピッチ」とも呼ばれていた。
PHS のサービスが始まったのは 1995年。このとき、料金が安い携帯電話というイメージが強調されて、その後も「簡易型携帯電話」といわれることが多かった。しかし実は、携帯電話と PHS は別もの。電波を中継するアンテナなども、別々に設置されている。
PHS はもともと、家庭で使われているコードレスホンの子機を街中でも使えたら便利、という発想で開発された。一方、携帯電話のルーツは自動車電話で、最初から高速で移動しながら広い範囲で使うことが想定されていた。
こうした違いから、PHS は当初、地下街や地下鉄の駅など携帯電話の電波が届きにくい場所でも使えるのがメリットだった。今は地下鉄の中でも携帯電話(スマートフォン)の通信が可能だけど、1990年代はまだ携帯電話は電波が届かない場所が多かった。
その反面、PHS には、携帯電話ほど通話エリアが広くない、自動車や電車で移動中に使うと切れてしまうといった弱点があった。
PHS のサービスが始まった 1995年は、2G(第2世代移動通信サービス)と呼ばれる時期で、携帯電話の通信方式がアナログからデジタルに変わり、電子メールなどデータ通信が広まり始めていた。
しかし、そのころの携帯電話の通信速度は 9.6kbps で、かなり遅かった。一方、PHS は PIAFS(ピアフ)という技術によって携帯電話より高速な通信ができた。通信速度は当初 32kbps、その後、128kbps まで伸びた。
そのため当時は、PHS の端末(電話機)をノートパソコンや PDA(携帯情報端末)に接続してデータ通信に使うことも多かった。こうした使用目的のために、ノートパソコンの PCカードスロットに差して使えるデータ通信専用の PHS端末もあった。
このほか、端末が小型で音質がいいこと、当時の携帯電話に比べて電磁波の発生が少ないことなどから、一時は携帯電話に匹敵する人気があった。携帯電話と PHS の 2台持ちという人もいた。
しかし、その後、携帯電話の性能が高まり、通信速度が向上、さらに料金の差が縮まって PHS の契約数が減少。2020年5月現在、PHS のサービスを提供しているのはワイモバイル(Y! mobile)だけになった。新規申し込みは 2018年3月末で終了している。
そして、ワイモバイルも 2020年7月で個人向けの PHSサービスを終了する予定だった。しかし、新型コロナウイルスの影響で携帯電話等への移行手続きに影響が出たため、終了が 2021年1月末まで延期された。
なお、業務用の一部サービスは残るものの、これも数年後には終了が見込まれている。ただし、病院や工場などで内線として利用している場合は引き続き使うことも可能。とはいえ、情報を共有しやすいスマートフォンへの移行が推奨されている。
初稿公開:1999年7月
最終更新:2020年5月
執筆:下島 朗