デジタルトランスフォーメーションは、英語で Digital Transformation と書く。そして、これを DX と略すことが多い。
デジタルトランスフォーメーションは、「デジタル技術による社会やビジネスの変革」といった意味。2015年ころから、IT関連の用語として使われるようになってきた。
かなり広い概念を含むので、デジタルトランスフォーメーションとは何か端的に説明するのは難しい。当初は、提唱者の言葉を翻訳して、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」とされていた。
しかし、デジタルトランスフォーメーションという言葉がビジネス界に広がるにつれて、「デジタル技術=IT によって企業やビジネスが一段と進化すること、あるいはビジネスの内容や成り立ちを変える」といった意味になってきた。
以前から、IT の進化と普及に伴ってビジネスの内容や業務の進め方が変化してきた。しかしデジタルトランスフォーメーションでは、従来のように部分的あるいは段階的に変えていくのではなく、事業自体を IT に立脚したものに作り替えることが重要なポイントになる。
そして、これまで IT の活用に消極的だった企業や、IT に馴染みにくかった業種も、IT企業化していかざるを得ない。
しかし日本では、現場の工夫や改善で成功してきた過去がある。そして、現在の経営陣や管理職は、そうしたやり方の中で成功体験を積んで出世してきた人が大半を占める。また、現場でも仕事の進め方を変えることに抵抗する人が多い。
そのためデジタルトランスフォーメーションも、部分的なデジタル技術の導入に矮小化されやすい。その結果、「デジタルトランスフォーメーションに取り組んだものの成果が出ない」「我が社には向かない」「ウチの業界にはなじまない」という声が増えていく。
実際、これまでも「デジタル化による抜本的な業務改革、事業の再構築」といった提言が繰り返されてきた。象徴的なものとして、2001年に発表された e-Japan戦略がやり玉に挙げられる。
たとえば今から、社会に役立つ情報を発信するビジネスを始めるとしよう。しかし、そのために紙の新聞や雑誌を新たに発行する人はいないと思う。ネットで情報発信するほうが、安くて速くて効果が高い。
あるいは、食の安全と安定を目指して農業を始めるとしよう。この場合も、農地を探して耕すより、デジタル管理された野菜工場を作る方が効率的で安定性も将来性も高いのではないだろうか。
では、車や家電などのモノづくり産業を最新のデジタル技術をフル活用してゼロからスタートしたら、どんなビジネス形態になるだろう。営業や販売などの仕事を、最新のデジタル技術をフル活用してゼロからスタートするとしたら、どんな方法が上手くいくだろう。
今までやってきたことにデジタル技術を付け足すのではなく、デジタル技術をフル活用したビジネスモデルに作りなおす。というより、新たに構築する。それが本来のデジタルトランスフォーメーションであるはず。
建物に例えると、改修や増築ではなく、一度更地にして最新技術を駆使した理想的な建物を新築するイメージ。ホテルを建て替えても、快適で安全な宿を提供するという事業目的は変わらない。
とはいえ、現実にはなかなか難しい。そのため、デジタルトランスフォーメーションも一過性のバズワード(流行り言葉)として数年で消えるといった予想も目にする。
ちなみに、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれる巨大IT企業で、デジタルトランスフォーメーションが検討されることはないという。
これらの企業は、最初から IT に立脚した、IT をフル活用したビジネスを構築している。そのため、もともと デジタルトランスフォーメーション後のビジネスモデルになっている。電気自動車のテスラも同じだろう。
つまり、デジタルトランスフォーメーションが必用なのは、これまで繁栄してきた企業、過去に上手くいった事業ということになる。しかし、こうした会社やビジネスほどデジタルトランスフォーメーションが進まないという話を見聞きする。
正しくデジタルトランスフォーメーションできなければ、日本人の生産性はますます低迷し、さらに国際的な競争力が下がっていく。そして、失われた 20年が、30年、40年になるだろう。こうしたことが、密接に連係していると思う。
初稿公開:2017年8月
最終更新:2021年1月
執筆:下島 朗