※この記事は、弊社(株式会社エントラータ)の事例です。
意外にリスクが高いリース契約
たとえ小規模でもオフィスを構えていると、ビジネス用の複合機を置いている事業所が多いと思います。複合機とは、従来のコピー機にFAXやプリンター、スキャナーなどの機能を追加したもので、現在は複合機が主流になっています。
そして、複合機(コピー機)といえばリース契約。安い機種でも100万円弱、高性能な機種だと数百万円するので一括払いで購入するケースは少なく、多くの事業所がリース契約で導入しています。こうした機器を販売する営業マンも「リースなら手軽なので」といった説明をするため、導入する側も「そういうもの」といった認識で気軽に契約しているケースが多いのではないでしょうか。
しかし、リース契約は意外にリスクがあります。リースは本来、事業計画に基づいて、その事業を行うために必要な機器を一定期間だけ提供するという趣旨です。そのためリースは、基本的に事業者しか利用できません。また、リース期間中の解約や繰り上げ返済も原則できません。実際、会社が廃業や倒産しても契約期間が終了するまでリース料を払い続ける必要があります。会社が払えないときは、連帯保証人(通常は社長)が払うことになります。
一方、「リースなら手軽」という側面も確かにあります。まず、まとまった購入資金が不要です。また、一般的なビジネス複合機は20万円を超えるので、一括払いで購入すると資産に計上して減価償却することになります。しかしリース契約なら、毎月の支払い額を経費にできるので会計処理が簡単です。
リース契約と分割払いを混同している人も見られます。分割払いは、支払いが終わればその機器は自社のものです。一方、リース契約は契約期間が終わっても自社のものにならず、リース会社に返却します。その後も同様の機器が必要なら、新たな機器で新たなリース契約を結ぶのが一般的。あるいは、同じ機器を再リースする方法もあります。この場合、支払額は大幅に減りますが、毎年、再リース料を払い続ける必要があります。
レーザー機よりインクジェット機の方が低コスト
弊社も零細な事業所ではありますが、出版物や広告物の制作業務のためコピーやFAXが必要だったので、創業以来ずっとコピー機リースを続けてきました。とはいえ、今ある機種は12年前に導入したもの。本来は5年リースでしたが、その後、再リースを7回も繰り返しました。この機種を導入したころは「次にはカラー複合機になるだろう」と思っていましたが、使用頻度が減ったので入れ替えないままズルズル来ました。
とはいえ、今でも複合機が不要になったわけではありません。FAXやスキャナーを使うのは年に数回ですが、コピーやプリンターはそこそこ使います。しかも、やはりA3フル対応でないと困るので家庭用の複合機では不足です。
そこで選択肢として浮上してきたのが、ビジネス用のインクジェット複合機でした。原理は家庭用のプリンターと同じで、液体のインクを紙に吹き付けて印刷します。ビジネス用なのでスキャナーやFAXも付いています。そして、A3対応の機種が標準でラインナップされているのが魅力です。
リース契約で導入されているビジネス用の複合機は、ほぼすべてレーザー方式で、トナーと呼ばれる粉を紙に定着させて印刷します。そして一般に、レーザー方式のほうがインクジェット方式よりランニングコストが安いと思っている人が多いようです。
しかし実際は、売り切り型の小型レーザープリンターでもA4モノクロ文書1枚あたり約3円。一方、インクジェット方式は機種にもよりますが1円台まで下がっています。カラー印刷もインクジェット方式の方が低コストです。
しかも、レーザー方式の複合機はカウンター料金がかかります。知らない方も多いのですが、印刷枚数に応じた追加費用を毎月支払う契約になっているのです。低価格機の場合はカウンター契約を結ばない方式を選択できることもありますが、その場合はトナーなどの消耗品が割り高になります。インクジェット方式ならカウンター料金は発生しません。
実際のところ、毎日数十枚から数百枚の印刷をする(あるいは、コピーを撮る)ならレーザー複合機の方がいいでしょう。しかし、小規模なオフィスや店舗ではインクジェット複合機の方がメリットがあります。
まず、本体価格が10万円未満の製品でも必要十分な性能があります。そのため、家電量販店やネット通販で買って、その代金を一括で経費にできます。また、一般的なビジネス複合機より小さいので置き場所の融通がききます。さらに、インクが大容量でランニングコストが割安になります。
というわけで弊社は、コピー機リースを卒業することにしました。代わりに購入したのがブラザー製のビジネスインクジェット複合機(MFC-J6580CDW)です。

再リースを重ねて12年目のモノクロレーザー複合機。

今回購入したMFC-J6580CDW。本体サイズは一般的なレーザー複合機の操作部と同じくらい。
ビジネスインクジェット複合機ならエプソンかブラザー
ビジネス用のインクジェット複合機で実績があるのは、エプソンとブラザーの2社です。エプソンは家庭用プリンターで知られていますが、ブラザーのプリンターは知らないという人もいるでしょう。しかしブラザーは、小型レーザープリンターやビジネス用インクジェット複合機の分野でシェアが高く、特に店舗や小規模オフィスで多く使われています。
具体的な機種としては、エプソンならPX-M5041F、ブラザーならMFC-J6980CDWを軸に選定していくのが現実的です。どちらも給紙トレイが2段で、A4の紙とA3の紙をセットできます。もちろん、B4などの紙を入れることも可能です。
エプソンの場合、PX-M5041Fの上にPX-M7050Fという機種がありますが、基本構成でも20万円を超えて一括経費にできないため、今回の選択肢には入りませんでした。また以前は、PX-M5040Fという給紙トレイが1段の機種があったのですが、2017年8月現在、ラインナップから消えています。
一方、ブラザーは2017年1月、新たにMFC-J6995CDW、MFC-J6980CDW、MFC-J6580CDWの3機種を発売しました。この中で、エプソンPX-M5041Fに対抗するのが真ん中のMFC-J6980CDWです。MFC-J6995CDWはMFC-J6980CDWの上位モデルで、専用インクカートリッジを使うことで印刷コストがさらに安くなります。大量に印刷するなら、MFC-J6995CDWがいいでしょう。
一方、弊社は印刷枚数が少ないので、給紙トレイが1段のMFC-J6580CDWで十分と判断しました。ブラザーの新機種は多目的トレイが秀逸なので、必要なときはここからA3の紙を入れることができます。もちろん、普段からA3を使う機会が多いなら給紙トレイにA3用紙を入れておくことも可能です。

後方の多目的トレイが便利。さまざまな紙をセットできて、封筒印刷も可能。

給紙トレイにA3の紙をセットすると前に飛び出す。このクラスの製品に共通の仕様だ。上位モデルは給紙トレイが2段になる。
インクは顔料4色、写真印刷ならブラザー旧機も狙い目
インクジェット複合機(プリンター)のインクには染料インクと顔料インクがあって、ビジネス用インクジェット複合機はいずれも顔料4色です。ただしブラザーの新機種は、マゼンタに染料インクを混ぜて発色を良くしています。
一般に、写真印刷には染料インクが適しています。そのため、家庭用プリンターのカラーインクは染料インクが使われています。しかし染料インクで文字を印刷すると、にじみやすく色が薄くなります。そのため今は、主に文字印刷のために黒だけ顔料インクを使う機種が主流になっています。顔料インクには、クッキリ印刷できて水に強いという利点があります。
また、インクジェットプリンターは6色でないとキレイに印刷できないと思っている人も見受けられますが、今は4色でもキレイに印刷できます。実際、雑誌のカラーページや写真集、カタログなどの商業印刷は昔も今も4色刷りです。また、カラーレーザー複合機のトナーも4色です。
なお、ブラザーの場合、旧モデルのMFC-J6973CDWまで黒だけ顔料インクでカラー3色は染料インクという構成でした。ブラザー機は家庭用もこの構成で、無駄なインク代を省いてランニングコストを下げています。2017年1月に発売された3機種は顔料4色ですが、染料+顔料のMFC-J6973CDWも併売されています。写真印刷が多いなら、こちらを選ぶのもいいでしょう。
エプソンのビジネス機は、以前から一貫して顔料4色です。エプソンのプリンターは写真がキレイと思っている人もいるでしょう。しかし、それは家庭用の話で、ビジネス用のエプソン機は写真向きではありません。

インクは標準容量と大容量の2種類で、大容量の方が印刷コストが下がる。これは標準インクの4色セットで、他社の家庭用6色インクセットより安い。

インク交換は、フロントオペレーションで使いやすい。黒インク右側の空きスペースは大容量インクを入れるとき使用する。
コストもスピードも耐久性もブラザー機が勝る
その他、細かな差異は下の比較表にまとめたとおり。店頭で見ると、見た目もサイズも似ていますが、印刷スピードやランニングコスト、その他の細部を比べると、あえてエプソン機を選ぶ理由はありませんでした。唯一、エプソンが勝っているのはA3ノビまで対応している点くらいでしょうか。
といったわけで、ブラザーMFC-J6580CDWを購入して4ヶ月ほど経過しました。実際のところ、A4文書の印刷は速いです。ガッガッと一気に印刷されてアッという間に出てきます。家庭用インクジェット機とは別モノです。ただ、印刷音が大きくて最初は驚きました。オフィスなら支障ないと思いますが、気になる人は静音モードに設定するといいでしょう。
機能的には、印刷もコピーも縮小拡大ができて、ADF(自動原稿読み取り装置)を使った連続コピー、連続スキャン、複数枚のFAX送信が可能。ビジネス機に求められる機能を網羅しています。さらに、パソコンでFAXを送受信できるPC-FAXや、スキャンしたデータをクラウドに転送する機能もあります。領収書や名刺など小さな紙をまとめてスキャンして個別に保存することも可能です。
接続は、USB 2.0のほか有線LANと無線LAN(Wi-Fi)に対応。複数のパソコンで共有するのも簡単ですし、スマホからも印刷できます。また、電話回線が1本の場合は、MFC-J6580CDWに一般的な留守番電話機を外付けすることで電話もFAXも使えるようになります(上位機種も同様)。

受信したFAXを自動的に転送してパソコンの画面で閲覧できる。パソコンから直接、FAX送信も可能。

無料アプリで、スマートフォンからの印刷やスキャン操作もできる。
一方、インクジェット機の場合、どのトレイにどんな紙を入れたか、その都度設定する必要があります。自動判別は行われません。また、各種設定は液晶パネルをタッチして操作しますが、上位モデルの方が大きな液晶パネルが付いています。人によっては、こうした細部も機種選定のポイントになるかもしれません。

ボタンは少なめ、設定変更は液晶パネルで行う。よく使う設定は、ワンタッチボタンに8件まで登録できる。

弊社は、ワンタッチボタンに取引先へのFAX送信を設定した。拡大/縮小コピーなどの設定も登録可能。
ITの普及で紙資料がなくなると言われて久しいですが、実際にはなかなかなくなりません。とはいえ、以前に比べると減っているかと思います。使用頻度が下がった機器に高いコストをかけていないか確認し、低コストで小型の機器に変更できるなら機会をみて入れ替えるのも広い意味でエコではないでしょうか。
なお、これまで使っていたレーザー複合機の消費電力は最大1280W、待機電力は14Wでした。一方、ブラザーMFC-J6580CDWは最大消費電力が約28Wで待機電力は1.6W。電力消費という点では、確実かつ大幅に省エネになりました。
(追記)
上記の記事を公開したあと、エプソンから新機種の発表がありました。
2017年8月末、PX-M5041Fの後継機としてPX-M5081Fが、PX-M5040Fの後継機としてPX-M5080Fが発表されて、9月中旬には店頭でも見かけるようになりました。これで、給紙トレイ2段の機種ならブラザーのMFC-J6980CDWかエプソンのPX-M5081F、給紙トレイが1段でいいならブラザーのMFC-J6580CDWかエプソンのPX-M5080Fという構図が復活しました。
エプソンの新型2機種で、まず目につくのは液晶画面がグッと大きくなったこと。そして、耐久枚数が15万枚に増えてブラザーに追いつきました。一方、印刷コストと印刷スピードは旧機種(PX-M5041F)と変わらず、ブラザー機と比較すると見劣りする状態が続いています(本稿中段の比較表をご参照ください)。
●導入機器:ブラザー工業製ビジネスインクジェット複合機 MFC-J6580CDW
●リース終了機:リコー製モノクロレーザー複合機 imagio Neo 135
●導入時期:2017年4月
●この事業所および機器への問い合わせ:可
●エプソンの製品情報ページを開く
●ブラザーの製品情報ページを開く
●『事例s』の問合せフォームを開く
執筆時期:2017年8月
追記:2017年9月
執筆:下島 朗