新型コロナウイルスの影響で初めて秋に開催
2020年10月25日(日)、森と踊る木こりフェス2020が開催されました。このイベントは、東京西部の八王子市を拠点に林業を営む森と踊る株式会社が毎年開催しているもので、今年で6回目となります。
これまでは、5月に開催してきました。今年も、当初は4月末に開催する予定でしたが、春先から新型コロナウイルス感染症が広がり、4月7日に緊急事態宣言が発出されたのを受けて開催延期となり、移動制限などが緩和された秋の開催となりました。
また、2020年は天候も不順で、梅雨が長く、8月には猛暑、そして秋も雨の週末が続きました。しかし、10月25日は雲一つない秋晴れ。澄みわたる空の下、例年より規模が縮小されましたが無事に木こりフェスを開催することができました。
※会場はすべて屋外でしたが、新型コロナウイルス感染症に配慮して開会宣言など人が集まるときはマスク着用、個々のイベントやブースではソーシャルディスタンスに配慮しながら状況に応じてマスク着用が基本ルールとされました。なお、写真を撮るときだけマスクを外してくれた人もいます。
森と踊る株式会社の三木一弥社長(以下、ずーやん)の開会宣言
森と踊る木こりフェスは当初、普段は森に入ることが少ない人にプチ林業体験をしてもらう機会となっていました。そして、そのメインイベントが皮むき間伐で、参加者が実際に間伐対象のスギやヒノキの皮をむいていました。
しかし2019年から、さまざまなワークショップや森のツアーを体験するイベントに変化。2020年も、森のあちこちで森と踊る株式会社に縁のある人たちが思い思いのブースを並べていました。
また、こうしたワークショップに参加しないで、ただ森でのんびりしたり、森の雰囲気を楽しむだけでもいい。そんな1日となっています。
メイン会場「もののけ広場」で、いろいろな森体験を楽しむ
森と踊るスタッフのシゲちゃん(三木繁治さん)が代表を務める「涸れ沢復活&ホタルの会」のブース。森と踊る管理下の森にある涸れ沢に清流を取り戻してホタルを復活させるために沢の整備などを行っています。
動物由来の材料を使わないパンを販売する「パン工房 ふらんす」。今年はパンの量が豊富で、石窯焙煎珈琲を買うこともできました。神奈川県大和市にある店舗は、森と踊るの木材で作られています。
竹かごを編む体験ができるコーナー。最初から、丁寧に指導してくれます。
毎年恒例、さんちゃんのブース。森の木から抽出したエキスでさまざまな商品を作って販売しています。
森と踊るの人気プログラム、食べ森クラブのコーナー。月に1回、森に集まって、森で食べたり楽しいアイデアを実践したりしています。
森と踊るのブース。ずーやん特性のボールペンは、軸の形がひとつひとつ違う一点モノ。
木こりフェス恒例、昼の癒しタイム
昼休みは、森のデッキで素敵な演奏に耳を傾ける時間です。今年は、守谷直恵さんによるクリスタルボウルの演奏が行われました。森に染み入るような澄んだ音色に、また癒されました。
森との関わり方を知る、ずーやんの森話ツアー
午後は、すーやんの話を聞きながら森の中をめぐるツアーに参加しました。
ずーやんが、この森で林業を始めたころは、ほとんど管理の手が入っていい荒れた状態だったそうです。そこで、まずは間伐をして森を整えていくことが必要だったそうです。そのため、皮むき間伐という方法を取り入れてきました。
皮むき間伐は、特別な道具が不要で誰でも簡単に作業できます。また、木を立った状態で乾燥させるため、切り倒したした木材を運び出すのも普通より楽です。
皮むき間伐と、その体験をメインにした木こりフェスは下記のページで紹介しています。
【イベント事例】森と踊る木こりフェス2018@高尾
しかし、日常的に入るエリアの整備が進むにつれて、健全な森を支える土中環境に意識が向くようになったといいます。
特に大事なのが、土の中の水と空気の流れ。森(山)には沢が流れていますが、地表を流れる水の少なくとも20倍の水が地下水脈として流れているそうです。そして、この地下水脈が健全であることで、森の木が元気に育ち多様性が守られます。
そういった話を聞きながら、約1時間半にわって整備が進む森の中を一緒に歩きました。
一見、元気そうに見えるこの森も、100点満点で10点くらいの不健全な状態なのだそうです。原因は、左下のコンクリート製の水路で、これがあることでその上の沢が埋まり健全な水の流れが断たれているといいます。
「多様性がある健全な森づくりに取り組んでいる」というずーやん。このあたりも数ヵ月前は、うっそうとした藪だったそうです。適切に手が入ることで、さまざまな植物が一気に芽吹きました。
地下水脈を改善するには「谷は掘れ、山は盛れ」だと、ずーやんは言います。スキー場のコブ斜面のように凹凸がある状態になっていると、土の中の水や空気の流れがよくなるそうです。
作業に欠かせない林道も、土の中の環境を考えながら作っているそうです。藁や炭を撒いたり、山側に溝を掘って枯れ枝や炭を入れることで、土中環境を改善する菌類が増えるとのこと。
ここは、山から里に変わるあたり。こうした変換点が非常に大事で、ここに溝や穴を掘って枯れ枝などの有機物と炭を入れると、山の水脈が健全になって湧水などの恵みがあるだけでなく災害の危険も減るそうです。
このエリアは、2017年4月に『森と踊る 500年後の森とつながる選木体験会』が開催された場所。当時は、土が乾いていて下草がありませんでした。その後、適切な間伐が行われたことで、今は地面にも緑が広がり健全な森に変わっています。
『森と踊る 500年後の森とつながる選木体験会』の様子は、こちらで。
最後にずーやんが語った、「美しくなっているか、気持ちよくなっているかが一番の観点。美しい状態は、機能を持って安定し、安全が保たれている」という言葉が印象的でした。
森の楽しみ方はいろいろ、フェス以外のイベントにも参加できる
このほか、午前と午後にネイチャーガイド・坂田昌子さんによるガイドウォークも開催されました。こちらは、主に森の中の植物や小さな動物を観察していく内容で、木こりフェス以外の時期にも開催されている人気イベントです。
以上、さまざまなワークショップを紹介してきましたが、これらに参加しなくてもかまいません。ただ、森の中で木に囲まれて1日を過ごす、それもまた木こりフェスの楽しみ方のひとつだと思います。
『事例s』では毎年、『森と踊る木こりフェス』の様子をレポートしていますが、森と踊る株式会社では同じエリアで継続的にさまざまなイベントや体験会を開催しています。森に行ってみたい、森に関心がある、という人は、森と踊る株式会社のサイトで確認して参加してみるといいでしょう。
森と踊る株式会社のサイト(ホームページ)
森と踊るのサイトにも、フジフジ(藤嶋裕太)さんによる『森と踊る木こりフェス2020』のレポートがあります。
■イベント名:森と踊る木こりフェス2020
■開催日:2020年10月25日(日)
■場所:東京都八王子市上恩方町の森
■主催:森と踊る株式会社
■『事例s』の問合せフォーム
取材日:2020年10月25日 取材・執筆:下島 朗