高原リゾートの町で農業用水を発電に利用。
長野県東部に位置する立科町。町の中心は北部にあって、南部は蓼科山や白樺湖などの高原リゾートで知られています。この立科町を南北に貫く県道40号線沿いに『陣内森林公園小水力発電所』があります。
小水力発電は、山間部に大きなダムを作るのではなく、中小河川や農業用水路、工業用水路、水道設備、工場やビルの給排水設備など、さまざまな場所に開設できる小規模な発電設備です。設置場所や水量に応じて、サイズや形状、発電量などを選ぶことができます。
『陣内森林公園小水力発電所』は、県道40号線に沿って流れる立科2号幹線用水路の水を利用しています。この用水路は、下流域の農地を潤すための大事な農業用水路ですが、この区間は特に利用されていませんでした。
この発電所の計画から施工管理まで手がけたのは、小水力発電の総合エンジニアリング企業である日本小水力発電株式会社様。発電事業者は、同社のグループ企業である日本発電株式会社様です。
発電所の計画が採択されたのは2015年12月で、その後、関係機関との協議、流量の再測定、基本・詳細設計、施工を経て、2018年1月に運転が開始されました。さまざまな好条件に恵まれて、スムーズに事業化が進んだそうです。
運転開始から1年4ヶ月ほど経過して、1年目の運用実績が出た2019年5月、日本小水力発電株式会社・代表取締役社長の半田宏文さんと、営業部課長の中村信ニさんに現地を案内していただきました。
公園内で取り込んだ水が道路脇の埋設管を流れ下る。
小水力発電は、水路から水を取り込む導水路と上部水槽(ヘッドタンク)から始まります。『陣内森林公園小水力発電所』の場合、この設備は発電所の約1km上流の陣内森林公園の中にあります。
用水路の水をすべて取り込むのではなく、水量に合わせて発電に必要な量だけ取り込んで、道路脇に埋設した水圧管路の中を水が流れていきます。水圧管路は、その大部分が地中にあるため、ほとんど見ることができません。
この約1kmの区間は傾斜が緩やかですが、上部水槽から水車まで約60mの標高差があります。そして、水圧管路の中を流れる水の量(流量)と、上部水槽から水車までの標高差(落差)を考慮して、その発電所に最適な水車が選ばれます。



山小屋風の発電所で年間約1,000MWhの電気が生まれる。
発電所の建物は通常、鉄筋コンクリートで造られることが多く、一見すると何の設備か分からないことが多いものです。しかし『陣内森林公園小水力発電所』は、美しい自然を求めて訪れる人が多い立科町という立地を考慮して、周囲の景観に配慮した木造の建屋になっています。

発電所の中に入ると、赤い水車と発電機が目に飛び込んできます。水車は、チェコ共和国のシンク社製で、2セルクロスフロー水車と呼ばれるタイプ。水車の手前には、水の流れを調節するガイドベーン(案内羽根)が設置されています。
この水車は、国内製の水車より数%ほど効率がいいとのこと。わずか数%でも、年間の発電量にはっきり差が出るそうです。
そして、水車の右側に接続された三相誘電発電機が回ることで電気がつくられます。最大出力は181kWで、年間可能発電電力量は約1,000MWh。発電された電気は6,600Vに昇圧し、固定価格買取制度の認定を受けて全量を中部電力株式会社へ売電しています。

年間97%以上の高稼働率で計画を上回る売電を達成。
小水力発電のメリットは、基本的に365日24時間の可動が可能なことです。他の再生可能エネルギー(自然エネルギー)と違い、夜間や風のないときも発電を続けることができます。
日本小水力発電株式会社の中村課長は「小水力発電は、ベースロード電源として極めて有効」といいます。ベースロード電源とは、時間や気候の変化にかかわらず必要とされる基本的な電気量を安定的に供給する発電のこと。
実際、『陣内森林公園小水力発電所』では、最初の1年間の稼働率が97%以上で、当初計画の120~130%を売電できたそうです。停止したのは、台風の接近に伴って予備的に止めたケースや、上部水槽に誤って動物が入ったときくらい。
とはいえ、秋になると落ち葉が増えるため、上部水槽の除塵機のメンテナンスが頻繁に発生します。また、水車や発電装置も定期的なメンテナンスが必要です。『陣内森林公園小水力発電所』では、日常的な維持管理は土地改良区などの地元関係者に委託し、保守点検は日本小水力発電株式会社が行っています。
さらに、点検の予定がない時期にも日本小水力発電株式会社のスタッフが自主的に現地を訪れたり、冬は除塵機に凍結防止ヒーターを追加するといった工夫を重ねることで高い稼働率が実現されているそうです。



●発電所名:陣内森林公園小水力発電所
●所在地:長野県北佐久郡立科町大字芦田字柳平
●水路名:立科2号幹線用水路(信濃川水系芦田川上流)
●発電方式:水路式(農業用水に従属)
●使用水量:最大使用水量 0.47m3/s
●落差:総落差 60.10m
●最大出力:181kW
●年間可能発電電力量:約1,000MWh
●水車形式:横軸クロスフロー水車(2セル式)チェコ共和国シンク社製
●発電機形式:三相誘電発電機
●運転開始:2018年(平成30年)1月
●水利権者:北佐久郡川西土地改良区連合
●土地所有者:立科町
●発電事業者:日本発電株式会社
●設計・販売・保守:日本小水力発電株式会社
●この施設の見学について
事業目的や業務で視察を希望する方は、個別にお問合せください。一般の方は、現地で直接ご見学ください。発電所建屋の左に施設の概要や発電量を示す案内板があります。また、右手の階段を上がるとガラス越しに中の発電設備を見ることができます。
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取材時期:2019年5月 取材・執筆:下島 朗