GAFA(ガーファ)は、アメリカの巨大IT企業、Google(グーグル)、Apple(アップル)、Facebook(フェイスブック)、Amazon(アマゾン)の頭文字を取った造語です。
この 4社は、プラットフォーマーと呼ばれて、莫大な利益を上げていて、企業価値がものすごく高いといわれています。でも、Googleの検索やFacebookの利用は無料だし、Amazonは安くて便利なイメージ。iPhoneは高いけど、スマホメーカーは他にもあります。
いったいなぜ、この 4社が圧倒的に強いとされていて、脅威とまでいわれるのでしょう。たくさんの情報を持っているから? と、いわれても具体的なイメージが湧きません。
昔から企業の経営資産は「ヒト・モノ・カネ」といわれてきました。今は、これに「情報」を加えて「ヒト・モノ・カネ・情報」ということが多くなっています。
GAFA は、この「情報」の量と質が従来とは桁違いなわけですが、その威力を少しだけ感じられるような物語を考えてみました。以下は、GAFA に限らず大手IT企業やITベンチャーが行っていること、考えていることの、ほんの一部をつなぎ合わせた架空の話です。
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あるとき、あなたの町でイベントが開催されることになりました。主催者にコネ、ぁ、いえ面識があったあなたは、飲み物を販売するブースをひとつ受け持つことになりました。
あなたは考えました。「どんな飲み物を提供したら、みんなに喜んでもらえるだろう? せっかくだから、普段あまり飲まないものがいいかもしれない」。悩んだ末、昔なつかしいラムネを売ることにしました。
ラムネとは、ビンに入ったサイダーのような飲み物で、昭和の時代に駄菓子屋やお祭りなどで売られていました。「ラムネなら、大人には懐かしく、子どもは逆に新鮮に感じて喜んでもらえるんじゃないかな」。
来場者は、約1000人の見込み。天気が良くて暑くなりそうです。とはいえ、全員に買ってもらうことはできないでしょう。「半分でも多いかな」などと悩みに悩んで、結局 300本を用意しました。
さて当日、開場前から「ラムネ」ののぼりを立ててお客さんを待ちました。しかしお客さんは、あなたのブースの前を素通りするだけでなかなか買ってくれません。しばらくして、たまたま一組の老夫婦が「あら、懐かしいわね」といって買ってくれただけです。
一方、隣ではプラット商会という会社がブースを出していました。そして、次々とお客さんが来て飲み物を買っていきます。驚いたのは、その売り方です。「あなたはコーラですね、はい、どうぞ」「あなたはアイスコーヒーですね」と、お客さんの顔を見ただけで商品を渡していくのです。
お客さんが途切れたところで、プラット商会の人に聞いてみました。「なんで、お客さんの顔を見ただけで何を買うか分かるのですか?」。
すると、こんな答えが返ってきました。「最初の男性は、いつも自動販売機でコーラを買っているんです。次の女性は、毎日、出勤前に会社の近くのカフェでアイスコーヒーのLサイズを買うんですよ」。
あなたは、また聞きました。「何で、そんなことを知っているんですか?」。すると「コツコツと情報を集めていますから」といわれました。「あなたが集めているんですか?」と聞くと、「いえいえ、スマホとかインターネットとかサーバーとか、そういったものを組み合わせて、自動的に集まるんです」とのこと。
「どういう仕組みなのか、よく分かりませんが、とにかく誰がどんな飲み物を買うか知っているわけですね」。
すると「飲み物だけじゃありません。たとえば、あの男性は車の買い替えるんですが、マイカーローンもウチの会社を使います」。「え、車も売っているんですか!」「あちらの人は、連休に家族旅行に行くんですが、チケットとホテルをウチの会社で予約しました。その向こうの人は転職を考えていて…」
「もう、結構です。とにかく、何でもお見通しなんですね」。「えぇ、まあ。あ、もちろん普通はこんなこと外部の人に話さないんですよ。聞かなかったことにしてくださいね。今は、コンプライアンスとか大変なので」。
その後、午後になってもラムネはあまり売れませんでした。一方、プラット商会のブースでは、さらに不思議なことが起きていました。あなたのブースの前までお客さんの列ができて、しかもお客さんは何もいわずに飲み物を受け取っていくのです。
あなたは、また聞きました。すると「ここに来る前に、スマホで注文を受けています。支払いもスマホ決済で済んでいるんです」とのこと。だったら、順番待ちの列があっても他の店で買うはずありません。売り場に来る前に勝負がついている、あなたは負けているということです。
まだイベント終了まで時間がありますが、あなたは諦めてブースを閉めることにしました。片づけをしていると、プラット商会の人が声をかけてきました。「店じまいですか。残ったラムネはどうするんですか?」。あなたは答えます、「持ち帰るしかありません」。
「よかったら、ウチで売らせてください」「え、売れるんですか?」「はい、この会場にいる人のスマホに告知メッセージを送れば、買う人はいます。少しでも在庫が減ったほうがいいでしょ?」「はい、お願いします」。
「残りの時間と、来場者の客層と、今日の天候から割り出すと、売れるのは53本です。もしも残ったら返品させてくださいね」「じゃあ、余裕をみて60本置いていきます」「いえ、53本ちょうどで結構です」。
あなたは、言われるままに53本のラムネを預けて家に戻りました。そして、考えました。「あんな強敵がいるなら、この町で同じ商売はできない。どうしたものか…」。
そこで、ネット検索で調べてみました。するとプラット商会は、あなたの町だけでなく、日本中の情報を持っているようです。それだけではありません、実は世界各国に現地法人があって、先進国だけでなく途上国にまで情報網が広がっています。
つまり、世界中どの国へ行っても、どんなビジネスを選んでもプラット商会の情報力に勝てない、販売力が及ばないということです。あなたが「こんな商品を売ったらたくさんの人が喜んでくれるんじゃないかな」と考えている間に、誰がどんなモノを欲しがっているか的確に把握して、先回りして売ってしまうのです。
もう、自分のような個人では商売はできないのか。あなたが落胆していると、プラット商会からメールが来ました。そういえば、うっかり連絡先も伝えずに帰ってきたのに、なんでメールアドレスが分かったのでしょう。
それはともかく、メールには「ラムネが52本売れました。1本だけ残ったので返品させてください」と書かれていました。自分が売ったのは、開場から5時間でわずか数本。一方、プラット商会は約2時間で52本も売りました。しかも、予測との誤差は1本だけです。
メールを見ると続きがあります。「実は、あなたの町で無人店舗の実験をしたいと考えていて、パートナーを探しています。よかったら一緒にやりませんか。条件は、…」。
条件は、対等なパートナーとなっています。しかし、巨大企業と個人経営者が対等といわれても資金力にも情報力にも圧倒的な差があります。結局は、相手の意向に従うしかないでしょう。かといって、相手が手を出していない分野を探して自分なりの商売を始めるのは難しそうです。
そもそも、相手が手を出していない分野なんてあるでしょうか。仮にあったとしても、それがビジネスになると分かれば圧倒的な勢いで乗り込んでくるでしょう。そうなると、あっという間に駆逐されてしまいます。
「結局は、飲み込まれるしかないのか…」。
では、また。
下島 朗