あなたのパソコンが、ある日あなたを犯罪者する!?
以上が、Windowsの更新が必要な理由ですが、それでもまだ「自分のパソコンには大したデータを保存してないし、今まで被害にあったこともないから、これからも大丈夫だろう」「そもそも、わざわざ犯罪者が自分のパソコンを狙ってくるとも思えない」という人もいるでしょう。
では、最近の(実際は、かなり前からある方法ですが)ネット犯罪の手法の一部を紹介しましょう。あなた自身が犯罪者になる可能性がある、恐ろしい話です。
まず、ネット上の犯罪者は、1台1台のパソコンに狙いをつけて不正アクセス(侵入)を試みるわけではありません。インターネットを通じて、インターネットに接続されたパソコンを無差別に狙ってきます。今、この記事をパソコンで読んでいる人は、目の前にあるそのパソコンも日々、攻撃にさらされています。しかし問題が起きないのは、セキュリティ機能で守られているからです。
しかし、何か不備があって、犯罪者のアプローチを受け入れてしまうとどうなるのでしょうか。これは、インターネットを通じて、あなたが気づかないうちに始まることもあるし、うっかり迷惑メールのリンクをクリックしたり添付ファイルを開いたことが発端になることもあります。
この段階では、特に変わったことは起きません。しかし、インターネットを通じて犯罪者が、あなたのパソコンにいつでも侵入できる状態になってしまいました。そして、自分の意のままに動く特殊なソフトを、こっそりとあなたのパソコンの中に送り込みます。
犯罪者は、世界中にこうしたパソコンをたくさん作ります。そして、インターネットを通じて遠隔操作で命令を送ると、隠していた特殊なソフトが一斉に悪事を開始します。たとえば、パソコンの中にあるメールアドレスに対して迷惑メールを送り続ける。あるいは、特定のWebサイトに対して膨大な回数の要求を送ることで、そのサイトのサーバーをダウンさせるといったことができます。
つまり、いつの間にか、あなたが知らないうちに、あなたのパソコンが犯罪者の手先となって悪事を働くわけです。このように、犯罪者による遠隔操作が可能になったパソコンをゾンビパソコンと言います。
あなたのパソコンから送られてきた迷惑メールを見たあなたの知り合いは、あなたが迷惑メールを送ってきたと思うでしょう。あるいは、特定のサイトへの攻撃に対して捜査の手が入ると、どのパソコンから発信されたか特定できます。そうなると、あなたのパソコンも捜査対象になるでしょう。
インターネットやソフトウェアという目に見えにくい世界で起きることなので、実感しにくいと思いますが、次のような状況を想像してみてください。
あなたは、部屋数の多い家に住んでいるとします。そして、あなたが気づかないうちに犯罪者が裏口の合鍵をつくり、いつの間にか一部の部屋に勝手に出入りするようになっていました。さらに、その犯罪者は、その部屋から特殊詐欺の電話をかけていたのです。
自分の家に犯罪者が勝手に出入りしているだけで十分に気持ち悪いですが、もしもその犯罪者が摘発されたら、あなたの家も捜索を受けるし、あなた自身も共犯者として捜査対象になるでしょう。これと同様のことが、あなたのパソコンの中で起こる可能性が常にあるわけです。
それでも、まだ信じられない。そういうことは考えたくないという人は、日々送られてくる迷惑メールの発信アドレスを注意してみてください。その中に、明らかに実在のプロバイダーや実在の企業から送られて来たものが混ざっていることがあります。
実際、私のところにも一時期、実在のプロバイダーや実在の企業のメールアドレスから頻繁に迷惑メールが来ていました。
自分が普段使っているメールアドレスから迷惑メールを送るというのは考えにくいことです。この人たちは、自分のパソコンがネット犯罪者に乗っ取られてゾンビ化していることに気づいていないのです。
10年以上、無償で改良を続けるマイクロソフト。
こうした状況に対して、Windowsの提供元であるマイクロソフトはWindows Updateという機能で対応しています。つまり、Windowsの機能を高めたり、インターネットを通して犯罪者が侵入(不正アクセス)しようとするのを阻止したりするために、頻繁に機能や性能を向上させているわけです。
Windows Updateの際、パソコンが勝手に延々とインターネットからデータをダウンロードして動作が遅くなったり、記憶装置の空き容量が不足して動作が不安定になったりして不愉快に思うこともあるでしょう。しかし、Windows Updateが止まると、犯罪被害に遭うリスクがどんどん高まります。
そのためマイクロソフトは、無償でWindowsの機能を高め続けているわけです。あなたがパソコン(Windows)を使っていて、マイクロソフトから「今月は2回アップデートしたから、〇〇円払ってください」といった請求を受けたことはないですよね。
とはいえ、マイクロソフト側ではWindows Updateのために(おそらく)相当数の技術者が日々、新しいプログラム作りに従事しているはずです。かなりのコストがかかっていると思います。
また、前述のようにWindowsの内部構造が古くなってくるとアップデートしようにも対応しきれなくなってきます。これは、住宅に例えるなら柱が細いと耐震補強にも限界があるし、車に例えるならエンジンが古いと排気ガス対策にも限界があるといったイメージです。
そのため、従来のWindows(実質的にはWindows8.1まで)は、発売から最低5年はメインストリームサポートを提供し、その後5年は延長サポートを提供するという方式になっています。
メインストリームサポートの間は、Windows自体の不具合の解消、新しい機能の追加、そしてセキュリティ対策など、すべてのアップデートが提供されます。そして、延長サポートに入るとWindows自体の機能の追加はなくなって、セキュリティ対策だけが提供されるようになります。
Windows7の場合、この延長サポートが2020年1月14日に終了します。ちなみに、Windows8.1も、2023年1月11日に延長サポートが終了します。これ以降は、セキュリティに問題があっても解決されないため、ネット上の犯罪者はこぞって前述のようなゾンビパソコンを増やすため、サポート期限が切れたままインターネットに接続されたパソコンを狙ってくるでしょう。
つまり、延長サポートが終了したWindowsを使い続ける、そのパソコンをインターネットに接続しているということは、鍵が壊れた家に住み続けるようなものです。もしも犯罪者がそれに気づいたら、すぐに侵入されてしまいます。
もともと欠陥ではなかった機能が新たな欠陥に変わる。
でも、「セキュリティ対策が必要ということは、その製品に欠陥があるからでしょ。だったらメーカーとして、欠陥を修繕するのは当たり前。車だってリコールが発生しているし、その費用をユーザーが払うことはない」と、思う人もいるでしょう。
たしかに、車や家電製品の場合は、部品の不具合などが原因でトラブル発生の可能性が見つかるとリコールの対象となり、無料で交換されます。
しかしパソコン(WindowsのようなOS)の場合、少し事情が異なります。マイクロソフトが10年以上に渡って提供するサポートの内容、特にセキュリティ対策は、もともと欠陥ではなかったものが多いのです。
前述のようなネット犯罪者は、なんとかしてインターネット経由で他人のパソコンに侵入しようとして、日々、新たな方法を考えています。そして例えば、インターネットでデータを送受信するために必要な機能に対して同じ命令を送り続けると、たまたま何十回に1回くらいエラーが起きたり、本来は受け入れないはずのデータを受け取ってしまうことがあります。その間隙を突いて小さなプログラムを送り込み、少しずつパソコンを乗っ取ったりします。
このような問題は、普通にパソコンを使っている限り、本来は欠陥といえるようなものではありません。しかし、こうした方法で不正アクセスが可能だと分かると、犯罪者は自動プログラムを使って何度も何度もこの方法を試みて侵入しようとします。そのため、こうした攻撃を受けても問題が起きないようにWindowsを強化するわけです。
たとえば住宅で、勝手口の鍵が最初から壊れていたら当然、メーカーの責任で交換されます。しかし、当初は問題なかった鍵が、特殊な方法で開けられるようになったとしたら、そうした方法が開発されたらどうでしょう。当然、より安全な鍵に交換したくなりますが、その費用は住人が持つのでしょうか、メーカーが持つのでしょうか。
Windowsの場合、メーカーであるマイクロソフトが費用を負担してきました。とはいえ、無期限でサポートを続けるわけにはいきません。そのため、その期限が発売から約10年の延長サポート終了というわけです。
10年で使えなくなるなんて耐用年数が短くないか?
わずか10年で古くなるなんて、製品として問題があるのではないかと思う人は、先ほどのドッグイヤーの話を思い出してください。10年前のパソコンは、数十年前の車や家に相当します。
ちなみに、家電製品の場合、製造終了から6~8年(製品による)は修理用の交換部品や消耗品を保管しておくよう取り決めがあります。Windowsの場合は、発売から10年なので同列には語れませんが、おおむね同じくらいの期間は修理保証されていると言えるのではないでしょうか。
世の中には、マイクロソフトという会社に対して、あまり良くないイメージを持っている人もいるようです。確かに以前は「ウィンテル」(Windowsと、パソコン用CPU最大手のインテルを合わせた造語)などと呼ばれ、パソコン業界の支配者として君臨していた時期もありました。また、根強い人気がありながらシェアを拡大できなかったMacに対する判官びいきもあったでしょう。
しかし私は、マイクロソフトは誠実な企業だと思っています。なにしろ、たった1回、ソフトウェアの代金を払っただけで、その後10年以上、無償でアップデートを提供し続けてくれるのです。ちなみに家電の修理は、メーカー保証(通常は1年)を過ぎると有償です。