私が10代だったころ、当時の雑誌に「あと36年で石油が枯渇する」といった記事が載っていました。このまま行くと、あと三十数年で地球上の石油がすべて使われて、なくなってしまうという衝撃的な予測でした。
複数の雑誌で見た覚えがあるので、おそらく当時の研究者の論文か何かが元になっていたのでしょう。
あれから40年くらい経ちましたが、石油はまだ枯渇していません。誰でもガソリンを買うことができますし、海を漂うプラスチックゴミが世界的な問題になっています。言うまでもなく、ガソリンもプラスチックも原料は石油です。
一般的に言われるのは、当時の予測は、その時点で埋蔵が確認されてる石油のうち、当時の技術で経済的に見合うコストで採掘できる量に基づいていた。しかも、当時の予想消費量によって計算されていたということです。
その後、新たな油田の発見や採掘技術の進化によって使える石油の全体量が増えています。消費量の方は、先進国では減少傾向にありますが、途上国の消費拡大で世界的には今もジワジワと増えています。車の燃費は良くなってきていますが、それはほんの一部の改善に過ぎないんですね。
また、当時は取り出すことが難しい、ガンバって取り出してもコストが見合わないとされていた原油を取り出して使えるようになってきました。よく知られる例として、アメリカのシェールオイルがあります。
今もネットで検索すると、さまざまなデータや予想が発表されているのですが、現在は「あと50年くらいは大丈夫」と考えられているようです。もちろん、地球全体の石油埋蔵量は増えていないので、ずっと使い続ければいつかなくなる日が来るでしょう。
しかし「石油はなくならない」という説もあります。
私が石油枯渇の記事を読んだ1970年代に話を戻します。複数の雑誌が「石油が枯渇する」と騒いでいるなかで、ひとつだけ「石油は枯渇しない」という記事がありました。
その記事の趣旨は、こうです。
三十数年後、本当に石油が残り少なくなると石油の価格が高騰する。すると、一般の人は車にガソリンを入れたり、石油ストーブを使うことができなくなる。そうなると、別の方法を選ぶ人が増える。たとえば、電気自動車かもしれないし、エアコンの暖房かもしれない。
別の方法は当初、石油よりコストがかかるだろう。しかし、使う人が増えれば量産効果で代替えエネルギーの値段が下がる。すると、代替えエネルギーを使う人がどんどん増えて、石油の消費量はますます減る。そのため、最後の一滴まで石油が使われることはない。
なるほど! 私が市場経済のダイナミックスを初めて感じた瞬間でした。
次のブログ記事「原発がなくなる日」へ続く。
では、また。
下島 朗