私は子供のころから絵や工作が好きで、美術大学に進学しました。卒業したときはインテリアデザイナーになりたいと思っていたのですが、紆余曲折あって20代の終わりにはフリーターのような状態に。
もはやデザイナーになるのは難しいと悟った私は、もうひとつ得意だった作文に賭けることにしました。そして、(株)宣伝会議のコピーライター養成講座に1年ほど通い、無謀にもそのまま独立しました。
ところが、その直後にバブル景気が崩壊。企業の3K(交際費、交通費、広告費)削減という状況で、実績のない新人コピーライターに仕事はありません。
困っていたところ、知人を通して企業向け会計システムのマニュアル制作の話が舞い込みました。私は当時、まだパソコンも持っていないし確定申告も白色でした。もちろん、コンピューターも企業会計も分かりません。
しかし、何かしなければ行き詰るのは明らかなので受注して、書店でコンピュータ用語辞典と簿記の入門書を買うところから始めました。そんなわけで、通常より時間がかかりましたが何とかやり遂げました。
これがキッカケで、あるパソコン雑誌の編集部を紹介してもらい、パソコンライターとしての活動が始まりました。その後、パソコン雑誌の隆盛とともに仕事が増えて順風満帆な時期を迎えました。フリーターからフリーライターへ、辛くも転身というわけです。
ところが、21世紀になると情報メディアが紙の雑誌からインターネット(Webサイト)に移ってきました。私の仕事も、IT企業のホームページに載せる取材記事が増えてきました。しかし、だんだんIT関連の仕事が減って、車や建築、生活情報や趣味のコラムまで、さまざまな原稿を書くようになりました。
こうなると、パソコンライターやITジャーナリストといった肩書が実情に合いません。かといって、単にフリーライターやジャーナリストというわけにも行きません。私は、政治や経済は専門外です。そこで、ひねり出したのが「産業ジャーナリスト」という肩書でした。これでも漠然としていますが、少なくとも政治や経済の分野の人でないことは伝わるでしょう。
ライターでもジャーナリストでも、「何でも書きます」「何でも書けます」は禁句です。得意分野を明確にできないのは実績がない証拠と思われます。そこで私は、フリーライターのころから「柔らかい分野は苦手です、叩いてコンコン音がするモノが得意です」と言ってきました。
たとえば、食品や飲食店、繊維(衣類)、流通(販売店)といった触って柔らかいものや感性で勝負する世界は苦手。IT関連、家電や車などの工業製品、建築や設備といった硬いものやカタチのあるものは得意。という意味です。
で、この『事例s』。IT、エコ製品、建築、設備、ロボットといった分野を対象にしています。企画段階で、対象分野が広すぎるという意見も頂きました。でも、どれも関心がある分野なんです。
ジャーナリストは「ジャーナルを記す人」という意味。そしてジャーナルは、もともと「日誌」のこと。『事例s』は日々更新していませんが、それでも後から振り返ったとき、21世紀前半にエコ関連の産業がどのように拡大して行ったか、その一部でも記録に残せたら幸いです。
では、また。
下島 朗