食べられる家づくりを目指して。
「食べられる家づくりをしています。もちろん、お菓子の家ではありません」。建築家の北村淳さんから、こんな話を聞いたのは4年ほど前でした。ビルの屋上で無農薬の野菜を育てるとのこと。「屋上庭園ですか?」と聞くと、「屋上菜園です」と言われました。そのビルが竣工して4度目の夏を迎え、年々屋上の緑が濃くなっているとのこと。今回、この屋上菜園を案内して頂きました。
JR中央線の豊田駅から徒歩4分、駅前通りに面した山口多摩平ビルは4階建で、1階と2階にオーナーが営む不動産会社があります。建物中央の階段を挟んで奥がオーナーの自宅、道路側の3階と4階は賃貸住宅。そして、階段を上って屋上に出ると外観からは想像できない風景が広がっています。

山口多摩平ビルの外観
屋上菜園は、階段室の搭屋を境に東側と西側に分かれ、西半分はオーナー用のハーブガーデン、東半分は賃貸住宅の入居者用として4区画に分かれています。つまり、駅近の賃貸住宅に住みながら、その屋上で家庭菜園を楽しめるのです。また、ここが「入居者同士の交流の場になれば」という思いもあるとのこと。

山口多摩平ビルの屋上菜園

西側のハーブガーデン
自然農法のノウハウを屋上菜園で生かす。
一見、草むらのように見えますが、これは無農薬の自然農法を取り入れているため。そのベースには、パーマカルチャーという考え方があります。パーマネント・アグリカルチャー(あるいはカルチャー)の略で、環境に配慮した持続可能な農業とライフスタイルを実現していく手法です。現在では、都市型の小規模農業や日常生活にもその概念が広がっています。

屋上菜園に実ったミニトマト

屋上菜園に実った枝豆
この屋上菜園では、週に2回ほど1~2時間ずつ草を取って堆肥を作っています。雑草は抜くだけでなく、あえて根を残してカットしているものもあります。コンパニオン・プランツといって一緒に植えると虫が付きにくい植物の組み合わせがあって、そうした配慮をすることで無農薬栽培を実現しています。
屋上に土と緑があると環境にやさしい。
屋上菜園の広さは、約200平方メートル。スラブの上に普通より厚い防水シートを敷設し、土の深さは20~25cm。通常の防水シート仕上げだと直射日光で劣化しやすいのですが、ここは土に覆われているため紫外線から守られます。そのため、100年くらい持つだろうと北村さんは言います。また、土が水を蓄え、植物に覆われているので気温の変化が緩やか。エアコンの電気代にも良い影響があるとか。もちろん、ヒートアイランド現象の軽減にも効果があります。

屋上菜園で作業する建築家の北村さん
「最近は屋上に緑を植えるケースが増えています。芝生でも効果がありますが、キレイなだけではつまらない。身近な場所で野菜作りを楽しんで、安全で美味しい野菜を食べる。自然と上手に付き合うライフスタイルが求められていると思います。その方が豊かな暮らしができるのではないでしょうか」と北村さんは言います。
■この屋上菜園を紹介する動画です。収穫の時期には、親しい仲間が集まってパーティーを開催しています。
●屋上菜園に設置したフォレストドームの中から見た360°画像。
フォレストドームについては、こちらをご覧ください。
フォレストドーム@山口多摩平ビル – Spherical Image – RICOH THETA
●建物名称:山口多摩平ビル
●所在地:東京都日野市多摩平
●設計監理:北村淳建築設計事務所
●建物概要:鉄筋コンクリート(RC)造 4階建
●屋上菜園設置費用:約300万円(約1.5万円/平米)
●竣工:2013年3月
●菜園管理:北村淳建築設計事務所
●この建物の見学:可(お問い合わせください)
●問合せフォームを開く
取材時期:2016年8月 取材・執筆:下島 朗
360°画像追加:2016年10月 制作:Entrata.
動画追加:2016年11月 制作:Entrata.